著者
黒川 洋行
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.249, pp.36-55, 2011-10

ヴァルター・オイケンは,オルド自由主義によるドイツの代表的経済学者である。彼の業績は,歴史的アプローチと数理的アプローチの二元論を超克して,独自の経済秩序理論を構築したことである。その中心的な理念的概念は,「競争秩序」と呼ばれ,そこでは,機能的かつ人間にふさわしい自由な経済秩序が追求されている。そして競争秩序の構築と維持のための経済政策の諸原理が体系的に提示されるとともに,その政策主体としての国家の積極的役割が是認されている。本稿では,オルドリベラルなオイケンの経済学の全体構造を明らかにすることを試みる。
著者
渡邉 憲正
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.270, pp.160-180, 2017-01

市民社会概念には,基本的に,国家と同義語の市民社会を表す(アリストテレスから近代の自然法論等に及ぶ)伝統な準拠系と,経済領域としての市民社会を表すとされる(ヘーゲル,マルクス以来の)準拠系が存在する。しかし,これら2 系統の市民社会概念は,これまでの了解ほどに対立する概念であっただろうか。本稿は,ホッブズ,プーフェンドルフ,ロックらの社会契約説,ファーガソン,スミス,カントらの市民社会概念と,ヘーゲル,マルクスらの市民社会概念を検討し,前者にあっても国家=市民社会は,生産-所有の経済的次元と婚姻-家族等の社会的次元という再生産領域を包括する二重構造からなる国家社会の全体であり,たんなる政治体制を構成するだけのものではないこと,他方,後者は伝統的な国家=市民社会に対する批判をなしたとはいえ,市民社会の概念的理解において前者と本質的に異なるものではなかったこと,を示したものである。
著者
望月 正光
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.254, pp.96-105, 2013-01

本稿の目的は,グローバル社会における付加価値税の新しい潮流として,課税の効率性と公正性を備えたニューVATに焦点を当てることである。これまで付加価値税の標準モデルとしてEUモデルが考えられてきた。しかし,1993年のEU成立と同時に,EU域内取引が自由化されたことによって,加盟国の付加価値税制度の相違点(例えば,複数税率や非課税制度等)による問題がより顕在化するようになってきた。このため,EUモデルは, オールドVATとして制度改革が不可避となっている。これに対して,グローバル社会における付加価値税の新しい潮流として,効率性と公正性を備えたニューVATが注目されており,その代表が,ニュージランドモデルである。その基本的な考え方は,複数税率や非課税制度を廃止し,「単一の標準税率構造と広い課税ベース」とするシンプルなものである。このような考え方に基づくニューVATが,オールドVATの直面している問題の多くを改善することを明らかにする。
著者
山本 勝造
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.252, pp.50-59, 2012-07

本稿では、非民主政国家における所得再分配政策と武力革命発生の関連性について検討する。Acemoglu and Robinson(2006)は、統治者が提示した再分配政策が履行されるかどうかというコミットメント問題に注目し、統治者の政策履行に対する信頼性の喪失が武力革命の発生領域を拡大させることを示した。本稿のモデルはAcemoglu and Robinson(2006)のモデルを修正したものであり、政策履行に関する統治者の意思決定を内生化することで、統治者の政策履行のインセンティブと武力革命発生の可能性について分析した。本稿の結論として、統治者の政策履行および一般市民による武力発生の可能性は、社会の経済格差に依存することが示される。具体的には、経済格差の大きな社会で武力革命の発生確率が高まるため、特権階級は政策履行確率を引き上げて武力革命の抑止に努めるのに対し、社会の不平等度が縮まると武力革命の発生確率は下がるため、特権階級が当初提示した所得再分配政策は破棄されやすくなる。
著者
渡邉 憲正
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.257, pp.22-44, 2013-10

明治期の日本が文明開化を図ろうとしたとき,福沢諭吉ら多くの論者は文明史を基本的に「野蛮(未開)—半開—文明」の3 段階に区分し,日本を「半開」として,周辺に「野蛮(未開)」をさまざまに設定した。だが,この場合,「野蛮(未開)」は,savage 段階とbarbarous 段階を包括する曖昧なものか「非文明」一般を表すものであり,また「半開」の理解も幅のあるものであったから,1875 年以後「文明と野蛮」図式は変質を遂げ,ついには中国(「支那」)・朝鮮をも「野蛮」と規定し,日清戦争を「文野の戦争」として正当化する図式に転化した。この過程には,「文明と野蛮」に関するいくつかの誤解とスペンサーらの社会進化論の受容における歪みが作用している。本稿は,福沢諭吉や加藤弘之の諸文献,スペンサーの翻訳書(『社会平権論』『政法哲学』等),『時事新報』の記事等の検討を経て,明治期の「文明と野蛮」図式の理解/誤解を考察したものである。
著者
水谷 文宣
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.265, pp.29-34, 2015-10

南アフリカの民間非営利組織では募金が横領されてしまいそれに伴う監査手続が不可能なことから,監査意見が限定付適正意見になってしまうという問題がみられる。南アフリカにはかつてのアパルトヘイトの影響により治安が悪いという横領を含む犯罪の背景があり,そして民間非営利組織が横領を回避できていない原因は社会福祉省の失策にあった。改善策としては,ファンドレイジングをプロフェッショナル・ファンドレイザーに代行してもらうことにより,横領をなくして監査手続を実施可能にするという方法が考えられる。
著者
渡邉 憲正
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.259, pp.1-26, 2014-04

中江兆民は1870 年代以降『一年有半』公刊まで,民権論を一貫して堅持した。他方,この時期に中江が対外関係論において「小国主義」から亜細亜雄張の国権拡張論へと「転換」を遂げたのも,紛れのない事実である。民権論における思想的連続性とこの「転換」とはいかにして整合するのか。また「転換」の思想的根拠は何か。本稿ではこのことを,論説「論外交」から『三酔人経綸問答』や『国会論』を経て論説「難儀なる国是」に至るまでの中江兆民の思想に即して考察し,結論的に,1)「小国主義」は「道義」の存在など条件付きで成り立つものであり,それが崩れた段階で顕在的な国権拡張論へと「転換」したこと,2)「転換」の思想的根拠は,自由民権論の基礎をなす近代思想の原理—各個人の自然権と自然法の支配—のダブル・スタンダード(「文明と野蛮」図式)のトータルな受容(それゆえ民権論は失われない)とスペンサー社会進化論影響下での変質にあったこと,などを主張した。
著者
水谷 文宣
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.265, pp.29-34, 2015-10

南アフリカの民間非営利組織では募金が横領されてしまいそれに伴う監査手続が不可能なことから,監査意見が限定付適正意見になってしまうという問題がみられる。南アフリカにはかつてのアパルトヘイトの影響により治安が悪いという横領を含む犯罪の背景があり,そして民間非営利組織が横領を回避できていない原因は社会福祉省の失策にあった。改善策としては,ファンドレイジングをプロフェッショナル・ファンドレイザーに代行してもらうことにより,横領をなくして監査手続を実施可能にするという方法が考えられる。
著者
渡辺 憲正
出版者
関東学院大学経済経営学会
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
no.275, pp.109-127,

これまで,ホッブズの自然状態=戦争状態は,近代的個人を前提として抽象的に構成された論理的なフィクション,あるいは近代国家を構成するために仮構された近代文明社会の反転像であるかのような解釈が,一般になされてきた。しかし,これによっては,第1 に,ホッブズがコモンウェルス(国家)の歴史的設立そのものの根拠を問うた意味が失われ,第2 に,ホッブズがコモンウェルス設立後に論じた「コモンウェルスの弱体化ないし解体」の意味が曖昧にされた。そして第3 には,解体後のコモンウェルス再措定という近代的意味と社会契約説の2 段階論的構成が平板化された。ホッブズにとって,国家が人間の本性に属さないことは自明である。だからこそ,なぜすべての人を拘束する国家は設立されたのかという問題が歴史的に提起されなければならない。それゆえ自然状態は,近代的個人を前提したフィクションであってはならなかった。本稿は,この視角からのホッブズ自然状態論の再検討を目的としている。
著者
高橋 公夫
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.264, pp.1-14, 2015-07

資本主義の次にやってくる社会は社会主義社会であるというのがかつての常識であった。ドラッカーはソ連崩壊の直後に『ポスト資本主義社会』を出版し,資本主義が勝利したのではなく資本主義はすでにポスト資本主義社会になっている。それは知識社会である。ソ連はその現実に対応することができなかったために崩壊した,という説を展開した。以下,知識社会としてのポスト資本主義社会とはどのような社会か,そこではどのような組織が形成され,どのような管理が行われるのか,またいかなる課題が提起されるのか,といった問題を取り上げる。結論的にはポスト資本主義社会における組織は市場や環境に開かれたものとなる。つまり,知識社会における組織のメンバーである知識労働者やサービス労働者はできる限り市場や環境に直接に向き合うような職務環境で裁量的に働くようになる。それにより職場コミュニティの余地は少なくなり,NPO のような組織がコミュニティの役割を果たすようになる,ということである。しかしそれで人びとは幸福か,というのが本稿の問題提起となる。
著者
望月 正光
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.254,

本稿の目的は,グローバル社会における付加価値税の新しい潮流として,課税の効率性と公正性を備えたニューVATに焦点を当てることである。これまで付加価値税の標準モデルとしてEUモデルが考えられてきた。しかし,1993年のEU成立と同時に,EU域内取引が自由化されたことによって,加盟国の付加価値税制度の相違点(例えば,複数税率や非課税制度等)による問題がより顕在化するようになってきた。このため,EUモデルは, オールドVATとして制度改革が不可避となっている。これに対して,グローバル社会における付加価値税の新しい潮流として,効率性と公正性を備えたニューVATが注目されており,その代表が,ニュージランドモデルである。その基本的な考え方は,複数税率や非課税制度を廃止し,「単一の標準税率構造と広い課税ベース」とするシンプルなものである。このような考え方に基づくニューVATが,オールドVATの直面している問題の多くを改善することを明らかにする。
著者
望月 正光 堀場 勇夫
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.244, pp.27-44,

要旨本研究の目的は,わが国における地方消費税のマクロ税収配分を各都道府県の産業連関表等を用いることによって,仕向地原則に基づく地方消費税の税収配分のあるべき姿を把握するため,マクロデータによってシミュレーションを行うことにある。消費型付加価値税の配分を,最も精緻なマクロ税収配分方式によって,マクロ統計に基づいて実施しているのがカナダの協調売上税(HST;Harmonized Sales Tax )である。カナダで行われているマクロ税収配分方式に依拠した場合,わが国の地方消費税のマクロ税収配分がいかなる姿となるかを可能な限り正確にシミュレーションする。具体的には,わが国で公表されている国または各都道府県の『産業連関表』,または『県民経済計算』等のマクロ統計を利用することによってマクロ税収配分の推計を行う。その推計結果から,仕向地原則に則したわが国の地方消費税のマクロ税収配分の姿を明らかにする。本稿(その1)では,カナダのHST と比較しながら,わが国の地方消費税のマクロ税収配分方式の特徴について説明する。さらに地方消費税の課税標準額の推計方法を示し,地方消費税の実際の税収額をマクロ税収配分方式に基づいて各県に配分する方法を明らかにする。(以上,本集掲載)
著者
橋本 健広 中原 功一朗 中村 友紀 原田 祐貨
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.264, pp.64-71, 2015-07

関東の一大学経済学部における2014年度の英語教育は,同大学の5カ年計画の事業の一つとして,初中級学生の英語力の底上げを図り,実践的な英語力を養成することを目標とした。具体的には,1.市販教材を使用して自習できるまでに初中級学生の英語力の底上げを図ること,2.TOEIC受験率を上げること,3.カリキュラム改革等を通して学生が英語でわずかながらもコミュニケーションを取れるよう教育環境を整えることの三点である。初中級学生の英語の熟達度の底上げを図るために,2年次英語補習としてTOEIC準拠教材に取り組ませ,また2013年度の検証結果をもとにeメンターを導入して継続的な学習を促した。語学としての英語や補習教材に関する動機づけのアンケートを実施し検証した結果,補習への取組が継続的になされ,また一部の学生に理想だけではなく実際の学習行為への動機づけの上昇がみられた。TOEIC受験料の補助制度を設けることでTOEIC受験者数が増加し,またリスニングの学習が有益であるという示唆が得られた。実践的な英語力を身につけるためグローバル人材育成プログラムを整備し,2015年度より実施予定である。留学等に関するアンケートの実施結果から,多くの学生は留学や海外での活動に興味を持っていた。2015年度はより多くの学生の補習プログラムへの取組を促し,英語の熟達度の改善と実践的な英語力の養成へとつなげる予定である。
著者
奥村 皓一
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.224, pp.70-95,

20世紀末から始まった米国の第5次M & Aブームは,史上最大の規模を誇り,欧州・アジアをも巻き込み21世紀の現在も進行中。そのM & Aの代表企業だったAT & Tは,長距離通信とメディア(CATV)の両業界を統合した"新独占<となったが,情報通信大競争化下でその王国は崩壊。旧子会社に買収され,140年の歴史を終えた。通信とメディアの合併統合化はさらに進み,巨大通信寡占体とメガメディアが互いの分野へ相互浸透し,さらに次なる業界を超えたメガ・マージャーへ進み21世紀型資本主義の主導的役割を目指す。
著者
奥村 皓一
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.225, pp.47-66,

20世紀末から始まった米国の第5次M & Aブームは,史上最大の規模を誇り,欧州・アジアをも巻き込み21世紀の現在も進行中である。そのM & Aの代表企業だったAT & Tは,長距離通信をメディア(CATV)の両業界を統合した"新独占<となったが,情報通信大競争下でその王国は崩壊した。旧子会社に買収され140年の歴史を終えた。通信とメディアの合併統合化はさらに進み,巨大通信寡占体とメガメディアが互いの分野へ相互浸透し,さらに次なる業界を超えたメガ・マージャーへ進み,21世紀型資本主義の主導的役割を目指す。
著者
和田 重司 ワダ シゲシ Wada Shigeshi
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.216, pp.90-100,

本書は,スミス経済学に関して久々に現れた包括的な分析であるだけではなく,経済学史の通説に関しても, わが国のスミス研究に関しても,まことに大きな問題提起をした意欲作である。問題がきわめて広範囲のものであるから,その全体を書評するのは容易な作業ではないし,著者が提起された問題すべてを一編の論考で一気に総ざらいすることはむしろ不可能であろう。しかし以下,前半において星野氏の主張の要点と思われるポイントのいくつかを摘記し,後半においてそれをめぐっての疑問を述べたいと思う。こうした書評を試みること自体が1 つの冒険ではあるが,久しぶりに現れた刺激的な労作にあおられて,評者は本書からより多くのことを学びとり,また今後ともさまざまな教示を仰ぐ期待を込めて,あえて不充分ながらも本書の要点と思われることのまとめとそれに対する疑問とを提示してみることにした。(以下の論述では「付加価値」という用語を著者の用法に従って,主として生産的労働が付加した価値のうち賃金を超える部分と対応させることにする。その場合,おおかた利潤だけを問題にし,地代の問題を度外視させていただく。本書の地代に関する問題点については,渡辺恵一氏の書評,「星野彰男『アダム・スミスの経済思想付加価値論と「見えざる手」』」,『京都学園大学経済学部論集』,第12 巻第13 号,2003 年3 月が,すでに詳しく検討している。)
著者
石井 穣
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.254, pp.120-135, 2013-01

これまでリカードウは資本蓄積を促進する立場から,生産的労働の増加を促進し,不生産的労働の雇用を含む,不生産的支出をできるだけ抑制すべきとの立場であったと考えられてきた。だがリカードウは「原理」第3版第31章の機械論において,召使いなどの不生産的労働者の雇用をひとつの足がかりとして,資本蓄積にともなう労働需要の増加を導出し,さらに機械導入は労働者階級を含む全般的富裕をもたらすことを論じている。このように,リカードウ資本蓄積論における不生産的労働の位置づけは,必ずしも明確ではないことから,本稿では,リカードウにおける労働需要の規定要因の考察を通じて,不生産的労働の位置づけを検討する。リカードウにおいては総生産物による労働需要規定が重要性を持とことを示すとともに,その分配論,利潤率低下傾向のさらなる考察のために,不生産的労働が及ぼす影響の解明が求められることに言及する。
著者
田中 史生
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.229, pp.11-23,

「高野雑筆集」下巻所収「唐人書簡」の分析を通して,9世紀中葉に両浙地域を拠点とした唐人交易者の対日交易の実態を検討した。その結果,当該期に対日交易を活発化させた彼らに対し,日本は856年前後までには唐物使を派遣してその貨物に対する官司先買を強化したこと,このため唐人らは,日本に居留する近親者との面会の場面を利用し,貨物を密かに渡して官司先買を逃れようとしていたことなどが推定された。また,彼らのもたらす交易貨物には,彼らが本拠とした江南地域産のものだけでなく,その北方・南方から集められた品々が含まれていたことも確認した。
著者
中村 桃子
出版者
関東学院大学経済研究所
雑誌
経済系 : 関東学院大学経済学会研究論集 (ISSN:02870924)
巻号頁・発行日
vol.252, pp.1-17, 2012-07

本稿は、1970年代のアメリカ映画字幕で使用された女ことばを例に挙げて、現代でも翻訳は日本語の変化をけん引している側面があることを明らかにする。1章では、マンガの分析から、それまでていねいさや従順さの表現とみなされてきた女ことばが、1970年代から悪意・高飛車な態度・怒りなどを表現する際に用いられている現状を報告する。2章では、このような変化の要因の一つとして、フェミニズムの影響により1970年代のアメリカ映画のヒロインが現れ、彼女たちのせりふが女ことばに翻訳された事情が考えられることを示す。戦い、闘う、強い西洋女性の身体が発する女ことばが広く消費されたことにより、女ことばの再生産だけでなく、変化までもが翻訳に先導されているとしたら、日本語とジェンダーの最も重要な関係である女ことばの構築、再生産、変革において、翻訳が思いがけなく大きな働きをしていると言える。結論では、女ことばの構築、白人性による女らしさの正当化、および、言語イデオロギーが翻訳過程に与える影響に関して本稿の分析が示している理論的示唆を論じる。